熊野純彦 / "メルロ=ポンティ ―哲学者は詩人でありうるか?―"


現在の僕自身の主専攻哲学者であるモーリス・メルロ=ポンティの思想に踏み入る為の入門書。

以前、生命倫理に関する書籍で森岡正博氏との共著で熊野純彦氏の文章に興味を持ったのと、本書は『哲学のエッセンス』というシリーズの一冊なのだけど、そのシリーズが理解しやすくて好きなので購入してみた。

読了してみての印象だけど、本書はメルロ=ポンティの主著の一つである『知覚の現象学』を中心に彼の哲学の大枠と魅力を提示し紹介する事に成功している。

本書の特徴としてはその副題にあるように「哲学者は詩人でありうるか」という一風変わった切り口から哲学を解釈しようとしている事だ。

フランス人であるメルロ=ポンティはその多彩な文章表現によって自己の哲学論理を詩的に表現しているが、そうであるが故に詩を受け入れる感性が無ければ彼の哲学の理解は難しい。

僕自身もあまり詩の世界には詳しくはないので、彼の思想の理解に四苦八苦をしている訳ではあるのだけど。

そのようなメルロ=ポンティの思想に踏み込む前にアルチュール・ランボー等の詩を紹介し、詩に対する理解を促す熊野氏の手法や文章構成は読みやすさを考えた面から見ても見事だと思う。

手法や文章構成のみではなく、内容に関してもメルロ=ポンティの思想を万遍なく取り上げており、特に彼の思想の中核をなす現象学的身体論に関する内容については様々な例え話を取り上げ巧みに文章を繋いでいるのでとても読みやすいうえに理解しやすいのではないかと思う。

しかし問題点としては、「生きられる世界」に代表される詩的記述によって表現される言葉は実に美しいが、如何せんメルロ=ポンティが何を言わんとしていたかについては伝わってこない。

メルロ=ポンティの詩的記述等の表現技法ではなく、自己との葛藤により生まれた何か、哲学者の信念たるものが本書には足りない。

良くも悪くも入門書という事で仕方は無いのだけどね。

とはいえ入門書としては内容も良く出来ているものだと思うし、ページ数も100ページ程度と読みやすく、価格も税込み1050円とお手ごろ価格なのでメルロ=ポンティの哲学に少しでも興味がある人にはオススメです。

現代思想の冒険家達』という哲学入門書のシリーズもあるのだけど、このシリーズのメルロ=ポンティはとてもではないが酷い出来の悪さなので…。

ちなみ『現代思想の冒険家達』のジャック・デリダハンナ・アーレントはとてもオススメです。

秋の夜長にはお気に入りの音楽でも聴きながら、色々な書籍を読んでみるのもいいよね。